台風やゲリラ豪雨に見舞われた日、家の中にいるのに、お風呂やキッチンの排水溝からゴボゴボと不気味な音が聞こえたり、ひどい時には下水が逆流してきたりすることがあります。これは排水管が詰まっているわけではなく、街全体の排水システムが限界を超えていることによって引き起こされる、非常に危険な現象です。この原因を理解するには、下水道の仕組みを知る必要があります。下水道には、汚水(家庭排水)と雨水を同じ管で流す「合流式」と、別々の管で流す「分流式」があります。特に古い市街地では合流式が多く採用されており、これが大雨時の逆流の大きな原因となります。合流式下水道では、普段は問題なく家庭排水と雨水を処理していますが、短時間に想定を超えるような猛烈な雨が降ると、下水管の中は雨水で一気に満杯になります。下水処理場の処理能力も追いつかなくなり、マンホールから水が溢れ出すのと同じ原理で、行き場を失った下水が、各家庭につながる排水管を逆流し、宅内の低い位置にある排水溝から噴き出してきてしまうのです。これは、川が増水して支流に逆流する現象と似ています。この場合、上がってくる水は単なる雨水ではありません。トイレの汚物や雑菌を大量に含んだ「下水」そのものです。非常に不衛生であり、床や家財が汚損するだけでなく、感染症を引き起こすリスクも伴います。対策としては、個人でできることは限られていますが、事前の備えが被害を軽減します。水のう(ゴミ袋に水を入れたもの)を用意しておき、逆流が始まったら排水溝の上に乗せて蓋をする、といった応急処置が有効です。また、根本的な対策として、排水管に「逆流防止弁」を設置する方法もありますが、これは専門的な工事が必要です。大雨の日に聞こえる排水溝のゴボゴボ音は、自然の猛威がすぐそこまで迫っている警告音。ハザードマップなどで自宅周辺の下水道の状況を確認し、万が一に備えておくことが重要です。
大雨の日に排水溝から水が上がってくるのはなぜ?