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徘徊防止と緊急時の避難の両立
認知症の家族を、徘徊の危険から守るために、玄関ドアに、内側から開けられない、強力な鍵を取り付ける。その選択は、家族の安全を守る上で、非常に有効です。しかし、その強固な守りは、一歩間違えれば、火災や地震といった、緊急災害が発生した際に、家族の命を脅かす、恐ろしい「罠」へと、姿を変えてしまう危険性を、常に内包しています。徘徊防止という「日常の安全」と、緊急時の避難という「非日常の安全」。この、時に相反する二つの要求を、いかにして両立させるか。それは、介護に携わる全ての人が、真剣に向き合わなければならない、極めて重い課題です。このジレンマを解決するための、最も確実な方法の一つが、テクノロジーの活用です。具体的には、「火災報知器と連動する電気錠システム」の導入です。これは、室内に設置された煙感知器や熱感知器が、火災を検知して警報を発すると、その信号と連動して、玄関ドアの電気錠が「自動的に解錠される」という、画期的な仕組みです。このシステムがあれば、たとえ玄関が、内側から開けられないように設定されていたとしても、火災発生時には、中にいる人が自力で避難したり、あるいは、駆けつけた救助隊が、スムーズに室内へ進入したりすることが可能になります。また、アナログな対策として、「合鍵の管理体制」を、徹底的に見直すことも重要です。例えば、緊急時に、すぐに駆けつけてくれる、近隣の親族や、信頼できる隣人に、事情を説明した上で、合鍵を預けておく。あるいは、地域の社会福祉協議会などが提供する「合鍵預かりサービス」を利用する、という選択肢もあります。そして、これらの対策と合わせて、必ず行わなければならないのが、避難経路の複数確保です。玄関ドアだけでなく、庭に面した掃き出し窓など、他の出口の開け方を、家族全員で確認し、定期的に避難訓練を行っておくこと。徘徊防止の鍵は、決して、家族を危険に晒すためのものであってはなりません。その鍵を設置する際には、必ず、その「命の出口」を、いかにして確保するかという問題を、セットで考える。その責任感が、本当の意味で、家族の命を守ることに繋がるのです。